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Krの『五重塔』は短編の名作です。
のっそり十兵衛と川越の源太の二人の大工の確執と和解の物語は感動的です。
そして、のっそり十兵衛がつくり、川越の源太が成した谷中感応寺の五重塔が、嵐にも負けず、雄々しくそれに耐えきる有様が、きわめて写実的に描かれています。
しかし、それは文学上のことであって、五重塔が風に強いことを証明しているわけではありません。
余談ながら、この小説のモデルになった谷中の五重塔は、一九五七年、心中した男女の放火により全焼してしまいました。
なお、斑鳩三塔のひとつで一九四四年に落雷で焼け落ちた法輪寺の三重塔の再建には、露伴の娘であるKfが尽力しました。
日本の伝統構法を語るとき、けっして落とせないのが継手・仕口です。
継手は、木材どうしを長手方向にまっすぐに接合する木組のことです。
仕口は「しぐち」とも読み、木材どうしをある角度で(多くは直角に)接合する木組のことです。
総称して、継手・仕口または継手仕口と書きます。
継手・仕口は、原則として木だけで部材を接合し、釘その他の金物は使いません。
ヨーロッパにも継手・仕口があり、基本的には日本のものとほぼ同じ形状です。
継手・仕口については説明すべきことがたくさんありますが、ここでは、ごく基本的なものだけ紹介します。
まず継手ですが、そのうちでも「鎌継」「蟻継」は、いまでも在来構法の建築現場で、土台などにごくふつうに見られる継手です。
多くは腰かけ状の部分のついた腰かけ鎌継や腰かけ蟻継になっています。
つぎに「略鎌系」と総称される一群の継手があります。
高校や大学で建築を習ったほぼすべての人が、たとえ正確な形状は忘れても、「追かけガ鶴野という名称を覚えているはずです。
桁などを継ぐのに使われます。
略鎌系のなかでも、わたしがひじょうに気がきいていると思うのは、「金輪継」です。
二つの部材が相互にずれるのを防ぐ目違い(凹凸の部分)が二か所あり、これらをかみあわせて一体にしたときにできるすきま(孔)に、振配を打ちこむものです。
つぎに仕口ですが、代表的なものは「柄差し」でしょう。
木材をT字型に組み合わせる仕口で、土台に柱の足元を差しこんだり、胴差(3章参照)を通し柱に差しこんだりするのに使われます。
横架材どうしをT字型に組み合わせるためには、「蟻がけ」などが使われます。
L字型に対しては、「留め」と総称される仕口があります。
継手・仕口は、大工が木に刻んだ日本の文化です。
この継手・仕口をいかに精度よく刻むかが、大工の腕の見せどころです。
さらに、単に決まった形状寸法のものを刻むのに飽き足りない大工も少なくなかったとみえて、じつにさまざまな継手・仕口が考案されてきています。
実用よりもアイデア勝負といった趣があります。
四方鎌や大阪城の大手門の継手は、まるでパズルです。
それを考えた大工が、「どんなもんだい」とひそかに自慢しているようすさえ浮かんでくるほどです。
最近の例では、「河合継手」があります。
考案者の名をとって命名したものですが、その特長は継手にも仕口にもなる点です。
しかも、ふたつの部材の組み合わさる部分の形状がまったく同じであるとか、組み合わせたとき木組のなかに空隙が生じない、といった点もなかなかのものです。
もっともこの河合継手、じっさいに使ったという話は聞いたことがありません。
逆説的ですが、これこそ「究極の継手」といえるでしょう。
観光地などのガイドさんの説明や案内書で、「この建物は釘を一本も使っていません」というのがしばしばあります。
もちろん、日本の大工が継手・仕口に腕をふるって、木組だけでしっかりした建物をつくつたことに対するほめ言葉です。
しかし多くの場合、まに受けないほうがいいと思います。
たとえば、山口県の岩国市にある錦帯橋は、世界に誇りうる木造橋で、以前は「釘一本使っていない」といっていたそうです。
ところがこの橋の構造は、桁を何段にも重ねてできているので、それらを束ねる鉄の帯がなくてはなりたちません。
釘一本どころか、鉄が主要な役割を果たしています。
適材適所で、木を鉄と組み合わせることも場合によっては必要です。
むしろ、釘が打てるというのは、木のすぐれた性質のひとつです。
ただし、木と金物とを不用意に組み合わせると、結露などの不都合がおこることがあります。
異なる材料の組み合わせには、つねに注意が必要です。
日本の各地には、その地域に根ざした民家の構法がありました。
大黒柱があるものは、大黒柱構法といいます。
構法の基本はもちろん柱と梁で構成される軸組ですが、その軸組を固めるのに、柱に横材を突きさすのを特徴としています。
すなわち、現代のように筋交いではなく、貫や差鴨居(下面に鴨居の溝を彫りこんだ大きな部材)を使っています。
このような構法を現代にいかそう、つまり伝統構法で新しい住宅を建てようという試みが、建築家や大工によっておこなわれています。
そのためには、貫や差鴨居の入った軸組の強さの評価法が必要ですが、まだ不十分ながら、構造計算の方法も提案されています。
また、金物を使わないという伝統構法の精神に則って、接合部を木だけでつくる新しい構法の工夫もおこなわれています。
早川式かんざし構法はその一例です。
このほか、既存の民家を大修理して現代にいかす「民家の再生」も注目されています。
江戸時代や明治時代に建てられた民家で、もともとはりっぱだったとしても、もはや現代的な生活の場としては耐えられず、かつ老朽化して危ないものを、生き返らせるわけです。
そのためには単なる修理ですませられず、ほとんど新築に近いような変更が加えられます。
しかし、柱や梁などの主要な部材が再利用され、家族が長年なじんできた空間が、その雰囲気を十分に残したままでよみがえります。
民家の再生で知られるFさんにお聞きした経験談は、なんとしても古い家を残したいという施主と、その熱意に親身になって応じた建築家が織りなす感動のドラマでした。
古い民家には、文化財に指定されているものが少なくありませんが、その多くは、もはや住宅としての機能を失い、飾りものになっています。
歴史を語るものとしての文化財の保存という観点からはよいとしても、生きた文化の継承という目で見ると、さびしさを感じます。
その意味で、これらの伝統構法による新築や民家の再生は、地域の文化を継承し発展させていくというために、ひじょうに重要なことであると思います。
木造住宅の設計で平面(間取り)を決めるとき、和風住宅の伝統に則って、一間を単位とするのがふつうです。
ここでの「間」は、三十三間堂のところで説明したうちの、柱と柱のあいだの寸法のことです。
柱と柱のあいだの長さには、測り方が二とおりあります。
ひとつは「其々制」、もうひとつは「内法制」です。
このちがいは、とうぜんですが柱には太さがあることによるものです。
其々制は、柱の中心間の長さを基準にするもので、「柱割り」ともいいます。
他方内法制は、相対する柱の内側(向き合った面)間の長さを基準にするもので、「畳割り」ともいいます。
其々制にしろ内法制にしろ、じつさいの寸法がいくらかというと、歴史的にも地理的にも錯綜していて、なかなか一筋縄ではいかないのですが、ここでは割り切って単純化して説明します。
畳の大きさあるいは部屋の広さをいうとき、「京間(大間)」と「田舎間(江戸間、関東間)」があります。

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